よく噛む人は健康になる
(第54回東京大会講演抄録) 日本歯科東洋医学会理事 田村歯科医院院長 田村享生
咀嚼の重要性については多くの研究者によって多岐にわたる報告がなされており、咀嚼が体にとって極めて大切な運動であることは改めて言うまでもない。狭義にとらえると、咀嚼運動は消化活動の一部であり、食塊を粉砕し、消化液(唾液)と混ぜることで、消化管の入口での第一の消化作用を行っていることになる。
しかし咀嚼を広義に考えると、食物という異物を体内に採り入れる際の体全体の活性化作用あるいは防御活動と考えることができる。日々患者さんに接しその口の中を見ていると、咀嚼はまさに体の活性化のスイッチだろうとの印象を受ける。
そこで、咀嚼を繰り返すと体はどのような変化が起こるのか?位相位顕微鏡を使った血液観察法でその変化を見てみることにする。
患者さんの手指の先端から採取した血液を位相位顕微鏡にて観察すると、まさに生きたままの血液(血球)を観察できる。特に赤血球が形を変えながらも、しなやかに円板状を維特していく様は見ていても飽きないが、そのしなやかさ(=赤血球変形能)は人によって異なり、又同じ人でも、日により体調により異なるのである。
また本来は1コ1コバラバラに動くはずの赤血球であるが、血液中に酸化物質が多い状態だと赤血球同士がくっついてしまい、ちょうどコインを連ねたようになってしまう。これを連銭形成というが、これもその人の体調を如実に表している。
この観察法では、顕微鏡を通して見られる赤血球の状態は実に多様であり、鋭敏にその時その瞬間のその人の体調を表しているのである。
患者さんにゆっくり咀嚼運動を繰り返してもらう。咀嚼の効果を最大限引き出す為に、咀嚼運動はできるだけゆっくりと行い、その1回ごとにつばを飲み込むようにしてもらう。食べ物は介在させず、1分間に30回のぺ一スで、つまり2秒に1回の咀嚼ぺースで10分間続けてみた。
その時の赤血球の状態を観察してみると、咀嚼回数を重ねるごとに血液の状態が改善してくる様がわかる。
千島喜久男先生は、食べ物が腸管内で直接赤血球に変化するという腸管造血説を唱えた。医学的には極めて唐突に聞こえる説だが、食養を体験すると:妙に説得カのある説になる。
その千島先生が唱えた食事の3S主義が次のものである。
1.穀物を中心とした菜食であること 2.少食で粗食であること 3.よく咀嚼して食べること
血液をよく観察してみると、この3つとも赤血球の状態と強い相関があるのだ。
今回はこのうちの3番目の「咀嚼」に注目したわけだが、お察しの通り「穀物菜食」も「少食」もどちらも赤血球の状態を良くし、体調を良くすることがわかっている。
千島先生はこの血液浄化の根本となる理論として腸管増血説を展開したわけだ。この理論は組織学的に極めて突飛に聞こえるが、実は腸管を通して行われるエネルギー交換が想像以上に大きな影響があることを言い表しているのである。そのエネルギー自体は顕微鏡では見えないが、食物のエネルギーを受けた血液(血球)はまさに新たに生まれ変わった如く活性化するのである。
腸管造血説では、食塊が直接赤血球そして体細胞へと変化するとの立場をとるが、実はこれはエネルギーの伝搬状況を表現しているのだ。食魂のエネルギー(=単なる栄養素だけではない)が赤血球に転移し、赤血球上のエネルギーがさらに体細胞へと受け継がれていくのである。赤血球が運搬するエネルギーとは、酸素や各種栄養ばかりではない。それ以外に東洋医学で言う「気」、あるいは最近の言葉では「波動エネルギー」などが重要な位置をしめているのである。咀嚼はこの見えないエネルギーを増加させる重要な動作なのだ。
現在私達が食べているものは、食品として充分安全が確認されたものだが、人類の歴史の中で、安全な食べ物だけを食べていられるのはここ数百年…否100年以内のことである。
人類の歴史上、数万年の間、人間は生体にとってあまり好ましくないものも当然口にしてきているのだ。そのような外来性の異物に対して、人間は何重にも自己防御機能をもってきたはずだ。食べ物を食べる時の最も大きな口腔運動(=咀嚼)は、「食物を噛みくだいて消化しやすくする」などという生易しい機能ではなく、むしろ「敵が入ってきたかもしれない!警報発令!防御要員配置につけ!防御機能パワーアップ!」という意味があるに違いないと感じている。
今回注目した赤血球以外にも咀嚼に関しておもしろい点がいくつもある。臓器関連点が各歯の上にあるというのも興味深い。
これは例えば上顎中切歯で強く噛むと大腸が活性化し、下顎犬歯に力がかかると胃が活性化するということである。全部の歯で噛むことで全身の臓器にスイッチが入るのである。
やわらかく日当たりの良い食品に囲まれ、食事の時間もあまり余裕のない現代社会では、余程の努カをしなければ咀嚼の回数は少なくなる一方である。この悪しき環境の中で正しい食生活を送るのは決して楽ではない。
食(咀嚼を含む)を改めるには次の3つが大切だ。
食生活を変えるのは価値観を変えるのとほとんど同じ。「玄米」とか「100回噛む」という「枝」の部分だけに目が行っていると長続きしないし、無理に続けると「単なる変人」となっていく。 「白米やパン食が続くと物足りなくてつらい」「早食い早飲みこみはおいしくないしいやだ!」という感覚を身に付けよう。
食生活を変えるのは価値観を変えるのとほとんど同じ。「玄米」とか「100回噛む」という「枝」の部分だけに目が行っていると長続きしないし、無理に続けると「単なる変人」となっていく。
「白米やパン食が続くと物足りなくてつらい」「早食い早飲みこみはおいしくないしいやだ!」という感覚を身に付けよう。
噛む事は飲み込む前の通過儀式ではない。「噛んで味わう」ことが食事の最大目的。飲み込みそうになってももう少し噛もう。ロの中の食べ物が自然になくなるまで噛んでいるのが理想。
50回以上を目標にしよう。
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