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オーストラリア
   全人的医療視察研修に参加して

田村歯科医院 田村享生
日本歯科東洋医学全誌
第20巻第1・2号
(2001年9月30日発行)


 平成12年11月オーストラリアのホリスティック医学施設の視察を目的とするツアーに参加することができた。11月末の9日間,シドニーやメルボルンの大学や医療施設を見学・訪問するツアーである。
  歯科開業医にとって9日間という期間は、診療所を空けるには極めて勇気がいる日数だったが、見学施設の中に癒しの園と言われるゴウラ一財団の施設も含まれ、思い切って参加した。

 参加者はホリスティック医学協会会長の帯津良一先生を代表とする総勢23人。医師、歯科医師(私1人だったが),看護婦,心理士,療術士,鍼灸師,アロマセラピストなど。
  他に健康食品関連,化粧品メーカーの人などもおり、医療関係という限られた範囲でなく人の体に関心を持つ様々な人の集まりだった。

医学施設の視察ツアー参加者
参加者全員(中央はIanGawler氏)

参加者の各々が自分の専門を持ち 異なった着眼点でツアーに参加していた。異業種のプロフェショナル集団!! しかも1くせありそうなこだわりプロもまざってる。刺激的なツアーだった。

 

<1>Monash University

 大学内に補完医学センター(center of complementary medicine)があり補完医学を研究している。ここでは総論的レクチャーをうけたが、日本では とかく無秩序になりがちな各種療体を整頓し、医師がそれらを総合的に理解し方向づける力量をつけるよう指導しているようだ。

Dr.Mark Cohenの分類では補完・代替医療の分類は、次のように分けられる。

  • 思想的システム
    アーユルヴェーダ、ヨガ、伝統的中医学,他
  • 手技
    カイロプラクティック、リフレキソロジー、鍼灸,他
  • 薬物
    ホメオパシー、ハーブ、サプリメント,他
  • Mind-Body
    催眠、瞑想、リラクゼーション/イメージ療法,他
  • 生体エネルギー
    磁力、気功、霊気、ヒーリング,他

 私達の関心ある東洋医学(鍼灸)は「手技」の中に、中医学は「思想的システム」として分類されていたが、分類の枠付けが私達と異なるようにも感じた。

 また、現代医学と比較する上でとかく話題になる Evidence based Medicineについてだが,Dr.Mark Cohenの指摘は次のようだった。


Complementary Medicineにおいては

  • Evidence(根拠)の欠落は無効性の根拠にならない
  • ある種の有効な治療法は決して証明できるものではない

 この点は私自身最も苦労している点でもあり、補完医学系の症例の報告発表をする際、最も判断に迷う点でもある。医が科学である以上Evidenceは絶対必要なものだが、「思い」や「意識」や「気」を測定できない今の科学にとって Evidenceはやはり難しい問題である。

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<2>Swinburne University

 Swinburne大学における補完医療プログラムは、現役の医師を対象としており、現代医学から補完医療に至るまで 全てをカバーしているとのことだ。昨年からstartしたばかりの世界初のプログラムだそうだ。保守的な日本の医学との違いを感ずる。日本の医学会も遅れをとらぬようしっかりしてほしいものだ。

 Dr.Saliからは補完医療の現状と予防医学について興味深い話が聞けた。その要点を記す。

左から、Sali先生、帯津良一先生と筆者
左から、Sali先生、帯津良一先生と筆者

1.補完医療の現状

  • 一般の医学校ではほとんど教えられていない。
  • 普通の病院では、受けられない。
  • 種類としては:鍼灸、栄養学/食養、環境医学(環境問題と健康・医療問題の関係性)、手技療法、ハーブ(薬草)を用いた療法、瞑想/リラクゼーション、カウンセリング、ホメオパシー等
  • オーストラリアでは、2/3以上の人々が補完医療を用いている。その10%程はハーブのレメディである。
  • 利用者の実像としては、高収入、高学歴、15-34歳の女性が浮かび上がってくる。
  • 欧米諸国に於いて、近年補完医療への関心、利用は上昇しており、研究予算の計上額も増えてきている。

2.筆者の結論

 補完療法・代替療法は今後その重要性が一段と高まる。医師・歯科医師ともにぜひ学んでほしい領域である。

3.「私はだれ?」  Dr.Ewald Einoder

 Swinburne大学の講義の中で最も興味深かったのがDr.Ewald Einoderだった。精神科の医師だが心のヒーラーと言ったほうが似合いそうな人だった。曼陀羅に似た図で自己とは何かを説いている。

Dr.Ewald Einoderの「WHOAMI?」
Dr.Ewald Einoderの「WHOAMI?」

「私はだれ」というのは癒しに直結するテーマでもあり、
私達にとっても永遠の課題である。

4.Dr.Ewald Einoderの結論

  • 良いセラピストになるためには、自己を癒すこと。
  • 笑顔と歓迎の姿勢。
  • 彼らが如何に力がある存在か、に気付かせる。
  • 自己評価を上げることは、治癒力の上昇に繋がる。
  • 偉大なヒーラーは、生命に繋がっている。全体を理解している。何かをする必要さえなく、そこにいるだけでよい。
  • ヒーラーとは、エネルギーの場とも言える。
  • 癒しは、あなたである。
  • 「癒す」ことは、「治す」ことではない。
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<3>Gawler財団

 Dr.Gawlerは、獣医であり同時に10種競技の有名選手でもあった。その若きGawlerに突然骨肉種の魔の手がおそったのだ。1975年に骨肉種により右脚を切断,さらに同年再発。失意と絶望の中,かすかな光を求める苦悩が続く。試行錯誤の末,毎日の集中的な瞑想を通じてストレスのコントロールとリラクゼーションにより快方へ! そしてさらに自己洞察を深めていくのである。そして食生活の改善、周囲からのサポートの活用等を併せて、78年にはついに奇跡的な快復を遂げるのだった。

 その後は各地でのサポートグループの育成に深く携わり、ガンで苦しむ人達を助けることに専念する。81年には、オーストラリア初のがんのサポートグループを正式に発足。現在に至る20年の間に、彼が手をさしのべた患者は
12000人を超えている。

 現在メルボルン郊外ヤラバレーにて癒しの園ゴウラー財団を設立しガン患者を救うことに日々努力している。

1.癒しの園・癒しの場…高い場のエネルギー

 15ヘクタールの広大な施設は、ヤラ・バレーの山間部に位置し、原生林や、ヤラ川の支流、小高い丘に囲まれており、豊かな自然の中の理想の癒しの園である。建物内にはワークを行なうための幾つかの部屋,宿泊棟,食堂,ショップ,マッサージルーム,瞑想室などがある。

瞑想室で(右筆者)
瞑想室で(右筆者)

ゴウラー財団の施設は、私が想像していた「医療施設」の枠を大きく越えていた。広大な森をもち,丘があり,川がある。草原の中では野生のカンガルー達が自由に歩き回っている…。彼らは人を恐れることもなくほんの数メートルの所まで人がきても平気で草をはんでいる。

小高い丘は周りを見わたせ、朝日も夕日も体一杯に思い切り受けとることができる。丘の上に立つと誰もが大きく背伸びし深呼吸をしていた。この場所では そこの空気,雰囲気,そしてそのエネルギー全部を思いきり吸い込みたくなるのだ。

 少し歩くと原生林の中に入る。何の木か分からぬが、数10メートルもある巨木が林立し、思わず皆が天を見上げる。「カーン,カーン」とよく響く鳥の声が聞えてくる。原生林の中の散策路?(明るく開けた所)を歩いているとストレスやら心配事がそれだけで洗い流されていく。まさに心が洗われ、魂が清められていく…そんな森である。

野生のカンガルー 朝日も夕日も受ける丘 原生林の散策路
センター内のいたる所にいる野生のカンガルー/朝日も夕日も受ける丘/原生林の散策路

2.完全菜食の食事とそれを支える有機無農薬自家菜園。

 完全菜食というと玄米菜食の姿イメージされるが、Dr.ゴウラーの食事は「ゲルソンの野菜(ジュース)」に近いものに思えた。生野菜と果物を主食で、パンが副食ではないかと思える程野菜が多い。ともかく野菜が中心食だ。

生サラダとして葉野菜はもちろん生ニンジン,生マッシュルームにフルーツ類がふんだんに出る。ドレッシング類は油や乳製品を使わずあっさりしたもの。糖質はパンが多いが玄米なども使用している。タンパク源は豆類あるいは豆による加工品と思われる。みそも特に出てくる。

飲み物はタンポポティー(タンポポの根を焙煎してコーヒーのようにした飲み物=これは日本でもおなじみ)ハーブティー,豆乳など。お茶,コーヒーなどカフェインを含むものは一切なかった。

 「玄米とみそ汁と漬物だけ」というのにはほとんど違和感を感じない私だが「生食菜とパンと果物」という食事には少々驚いた。しかし丸2日間ここで過ごすうちにこの独特の食事にもなじんできた。食を急激に変えることは難しいが ペースは同じである。食で体が変わり心も変わるのである。

 ここで食べる野菜の多くは宿泊棟に隣接した自家菜園で栽培されている。もちろん無農薬有機栽培である。園内で刈られた下草や雑草をコンポストにして有機肥料を作っている。

完全有機無農薬栽培を支えるコンポスト
完全有機無農薬栽培を支えるコンポスト

コンポストの山を見せてもらったが、中は見事な有機肥料となっており多量のミミズが元気に遊んでいた。

3.瞑想とヨガによる 癒しと気づき

 瞑想もヨガも、現代医学的に考えると、精神的肉体的に緊張状態にある人を解放しリラックスさせ交感神経優位の状態から福交感神経優位の状態に変化させることである。

これは生体の免疫力,治癒力を向上させるということでもあり、ガンをはじめ難病を持つ人にとってはとても有効な治療手段である。しかし現在の日本の専門医療機関では帯津三敬病院で気功をとり入れてるのが有名だが他にはまだまだ少ない。

 瞑想の第一の利点は、上述したように身体的精神的リラックスにより体の治癒力を高げることだが第二の利点は(実はこれが究極の目的と私は考える)心の解放,自己の気づきである。「私はだれ」「私はなぜここにいるの」 決して安易に得れる答ではないが 瞑想をくり返すとそのヒントが見えてくる。「自己の存在自体」が何よりありがたいことに気づかされる。

 瞑想の第一レベル(身体的精神的リラックス)でも病気に対する治癒力は向上するが第二レベル(気づきと解放)に到達できれば治癒力の飛躍的向上も期待できるし,病気に対する苦悩が著しく減少する。宗教家の中にはこれを「霊性の向上」という言う人がいるが、私はこれを「病と自己に対する気づき」と考える。

4.気づきと食事

 一般に玄米菜食は「健康食」として知られているが、実は感覚を鋭敏にし、さらに霊感をも鋭くする「霊感食」でもある。修行僧は肉を断ち、精進食を基本とするが、Dr.Gawlerの完全菜食も「健康食」と同時に「霊感食」としての意味が大きいように私は考える。

 現代社会のストレスからはなれ、食を正すことで自分の生活、自分の生き方の大きなひずみに気がつくのである。自然に囲まれた環境も、完全菜食の食事も、深い瞑想も「気づき」のための1手段というように考えられる。ひょっとしたらガンなどの病いも「気づき」のための神がくれたチャンスなのかもしれない。
  生きることについて深く考える9日間であった。

 稿を終えるにあたり団長としてお世話になった帯津良一先生,プロの通訳以上に適切に助言して下さった小林清乃先生,そして素晴らしい時間を共有させていただいた参加者の皆さんに心からの感謝を申し上げたい。

 

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