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義歯は、健康保険でできるものから、何十万円もするものまで、その価格にずいぶん幅があるのも事実です。どれが一番よいかは、その人の顎の状態にもよりますので、一概にはいえません。
私自身、義歯には特にこだわりがありましたので、自分自身の経験をお話しします。
私は歯学部を卒業後、補綴科という義歯に関連する専門医局へ入局しました。国立の大学病院の素晴らしいところは、研究という名目で、採算や経済性を無視して、よい義歯作りに専念できることです。
一つの義歯を作るのに、無制限といえるほどの時間をかけました。保険の名目で作る場合は材料に制約がありましたから、自前で材料を購入して作りました。患者さんのためと同時に自分の勉強のためです。新人の医局員はきわめて薄給でしたが、みな義歯が上手になりたい一心で、毎晩、夜12時過ぎまで大学病院の技工室で技工をやっていました。
その後、日本を代表するという義歯の名人のセミナーへも、いくつか参加することもできました。15年くらい前でしたが、一日で5万円、10万円のセミナー代でした。薄給のなかで支払うセミナー代は重かったですが、その教えは今も鮮明に頭のなかに生きています。
現在、私は、開業14年になります。私は、保険の義歯も保険外の義歯も作りますが、残念ながら保険の義歯を作る時は、手間をかけられず、早く終わらせることに努力しなければなりません。なぜなら、保険の義歯があまりに安いからです。
健康保険の義歯の値段は国が決めることで、私達歯科医はそれに従うしかありませんが、医療費削減の波のなか、義歯の値段はきわめて安くおさえられています。
義歯を作るのに調整を含めれば、最低でも4〜5回の通院が必要です。歯科医、歯科衛生士、歯科助手、歯科技工士と多くの手を経て作られます。専用の設備も必要です。そうして作った義歯でも、安売の眼鏡と似た料金です。
バネ(クラスプ)の製作料は、ワイヤー製だと数百円です。国家資格をもつ技工士さんが専用の材料と器具を使用して作っても、その値段なのです。道端で売っている針金のブローチの何分の一の値でしょうか。
こんな具合ですから保険の義歯は、制作側にとってはほとんど赤字です。少し手のこんだことや、手間のかかることをすれば、なおさら赤字の幅が広がります。歯科開業医にとって、保険の義歯をつくる際の最大のテーマは、いかに赤字の幅を少なく作るかなのです。
十何年か昔、自分で技工をやりながら学んだことや、義歯の名人達から受けた教えも、健康保険の義歯には、ほとんど生かせないのがとても残念です。
患者さんの立場として、義歯は安いにこしたことはないと思いますが、逆に安ければよいというものではありません。信頼できる医師と、よく相談されることをおすすめします。
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