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歯科医師からの警告・報告(2)

健康保険制度の問題と歯科医師会の悲喜劇

(この原稿は1999年に執筆し同年の雑誌に掲載されました。)

 

今までは素晴らしかった日本の医療制度

 日本の医療制度は、国民の全員が加入し、国民の誰もがいつでもすぐに病院にかかれるということで「国民皆保険制度」といわれています。
  これは、世界的にもとても優れた制度で、そのおかげで日本人の平均寿命は、常にトップレベルを保っているといわれています。

 もちろんこれは医療制度だけの理由ではなく、例えば、どこでも上水道や下水道の設備が整っているとか、経済や物流の発達により、欲しいもの、必要なものがいつでも簡単に手に入るとか、貧富の差が少なく、不衛生な住環境に住む人が少ないなど、社会全体の豊かさが、人々の病気を減らしている事も大きな要素です。
  いずれにしても、病気になっても医者にかかれない人がほとんどいなくなった日本では、日本人は世界一死ににくい国民になった事だけは確かです。

長寿になった分本当に幸せになったのだろうか・・・・・?

 世界一の長寿国というのは、とても素晴らしい事だと思います。でも、大切なことは、その分豊かに幸せになってきたか?ということです。
  平均寿命が延びた分、お年寄りが豊かに平和に過ごせる時間が増えているのでしょうか?
  実は平均寿命がのびたからといって、必ずしも元気なお年寄りが増えたとは言えないのです。寝たきりの老人や、入院したままの老人、ボケで幼児のようになってしまった老人など、気の毒なお年寄りの数も相当数にのぼっているのです。

 例えば、ドラッグストアなどでのおむつ売場のコーナーを見ると、赤ちゃん用のおむつと同じくらい老人用のおむつが売られています。それだけでも、お年寄りの問題がとても深刻なことがうかがえます。

 

健康保険制度は疾病保険病気になって初めて使える!!

 虫歯を削ることよりも、虫歯にさせないことの方がずっと大切なのに、そのための予防処置はなかなか健康保険は使えません。
  歯科保険制度の中心をなすのは削ってつめたりかぶせること、入歯をつくること、歯石をとったり歯肉の手術をしたりすること…などなど…。

 いずれにしても、事が起きて「あぁ困った」となってから慌ててバタバタと処置をするのが、保険制度なのです。
  これは歯科に限らず医科にしても同様のことで「病気にならない体づくり」とか「定期検診」とか「健康維持のためのアドバイス」などは、元々健康保険制度のなかにはほとんどない概念なのです。

 最近でこそ、予防的な処置やアドバイスなどが一部保険導入されてきましたが、全体的に見れば、ほんの一部にすぎません。
  「人間ドッグ」が保険がきかないように「定期検診」や「お口のそうじ」は法律的には保険がきかないのです。
  それでも熱心な医師や歯科医師達は不採算(赤字)になりながちな予防処置に、真剣に取り組んでいますが、ただでさえ歯科医院経営にとって非常にきびしい昨今、理想を求めていくのは、極めて苦労を伴うのも現実です。

 国民全員がたくさんの虫歯で苦労していた昭和30年〜40年代は、この保険制度により、国中の人々がとてもたすかりました。
  歯医者はおしよせる大量の虫歯に対し、ともかく「ひたすら削る」の毎日だったそうです。
  そして時代は変わり、平成10年。虫歯の数もずいぶん減りました。
  しかし、歯科保険制度の骨格は、昭和30年代のままです。
  「一生自分の歯で食べよう!」という標語は良いのですが「削ってうめる」中心の保険制度がそのままでは、前途多難な気がします。

 

ある未開の国の物語

 この国では、毎日毎日交通事故が多発し、けがをした人を病院に運ぶことすらできない程でした。
  そこで、その国の役人は、救急車をたくさんつくり、事故車を処理するレッカー車も多数用意し、交通事故を処理する担当職員の数も増やしました。
  おかげで交通事故が起きればすぐに救急車も来るし、事故処理もスムーズに行われるようになりました。

 しかし、交通事故の数は全然減りません。それどころか、大きな事故の割合がどんどん増えています。
  だってテレビではガンガンスピードの出る車の宣伝を毎日やっています。通りをブッとばすのがカッコイイような風潮は、ますます増えています。

 そのうち国の財政がきびしくなり、増えすぎた救急車やレッカー車の運転手の給料を減らすことが決まりました。
  古参の運転手達は、怒りを新人にぶつけました。特に、古参達と全く別の価値観をもつ新人はことさら憎らしくなりました。
  古参の運転手はかつて花形職業でしたから、自分の言うことはたいがい通ると思い、新人の運転手の給料を返上させ、自分たちで分ける相談をしていました。

 しかし、世間の常識からひどく外れていることに少しづつ気が付き始め、あせっています。国民たちは、このままでは困ると気が付いていますが、多くの利権がからんでいるらしく、なかなか根本的な解決が進んでいないようです。
  横から見ている国民の私達には、どうすればよいかすぐにわかります。少なくとも、交通事故を減らすことが根本的なことなのです。
  それなのに、国の偉い人達は、古参の救急車の運転手と密室内で利権の相談ばかりしているから何の解決にもなりません。そうしている間にも、多くの国民が交通事故で死んでゆきます。
  一番気の毒なのは国民たちです。

 

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