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赤血球形状と食養

田村歯科医院
田村享生

日本歯科東洋医学会誌第17巻第2号別刷
(1998年12月25日発行)

 

<1>緒言

  食養指導者がよく口にする言葉に、「食が変わると血(赤血球)が変わる」「健康な人と不健康な人では血(赤血球)が異なる」というものがある。
これは概念的意味がかなり先行した言葉ではあるが『食養』を経験してみると、まさに実感する言葉でもある。
私達歯科医師も毎日のように観血処置を経験し「サラサラの血」「ベトベトの血」「ピッと止血しすぐ治る傷口」「グズグズと治らない傷口」など、同じ血液でもかなり個人差があることを感じる。
そこで口腔内より採取した血液を位相差顕微鏡で観察し、食養の前後でその赤血球形態がどのように変化するのか、観察・考案したその結果を報告する。

 

<2>実験方法

  当院へ来院した患者4名に食事指導を行いその前後の血液像を観察し、その変化について考案する。
  患者4名は基本的には健康で、特に循環器系には基礎疾患をもたない者とした。患者4名の日頃の食生活は通常の一般的なもので、極端な偏りはない人達である。
  食養指導前と指導後に、口腔内から血液を採取し、位相差顕微鏡にて観察する。その際、採血部位や採血および観察法により大きなバラつきが出やすいので、試行錯誤の結果、以下の採血観察法をスタンダードとした。

  1. 採血部位:健全で平坦な口腔粘膜から採血する。凸凹のある辺縁歯肉や病巣の近くは避ける。
  2. 消毒:よく水洗乾燥した後、アルコール綿にて消毒し乾燥させる。
  3. 切皮:三綾針または血糖測定用採血器により切皮する。
  4. 採血:最初に出てきた血液は、切皮操作による血球破損や汚染が心配なので使用しない。その後出てきた血液を道具を介さず直接カバーガラス上にとる。
  5. プレパラート作製:検体のついたカバーガラスをスライドグラス上におき、カバーガラスの自重で血液が広がるのを待つ。決して押さえつけてはいけない。
  6. 位相差顕微鏡にて観察する。今回使用した顕微鏡は、歯科用位相差顕微鏡(ネオデンス製マイクロスコープTVシステムおよびオリンパス光学製位相差顕微鏡モニターシステムBX40-PC・TV)である。

 

<3>食養指導内容

  私が患者さんに指導する食養法は、穀物菜食と咀嚼の励行を主な柱としている。しかし臨床経験上、いきなり「穀物菜食」と「咀嚼の励行」を患者さんにお話しすると、多くの患者さんは多かれ少なかれ違和感を感ずるようで、かえって治療の進行を妨げることすらある。
  そこで以下のような内容を順次指導し、より現実的な簡易式食養法を実践していただくようにしている。
  今回は通常の現代的食生活をしている人に対し、この簡易式食養を実践していただき、その前後(4〜7日後)の赤血球像を観察した。

指導内容
1)具体的食養法 (1)禁止(制限)食品…1.砂糖、2.肉(乳製品を含む)、3.油
(2)咀嚼の励行
(3)推奨食品…1.穀物(胚芽米〜玄米)、2.野菜・海草、3.日本伝来の発酵食品
(4)食物の陰陽バランス
(5)身土不二、一物全体
2)食養の補助療法 (1)心のもち方(プラス思考)
(2)食事中のリラックス
(3)イメージ療法(「1噛みごとに健康になる」イメージ)

 

具体的食養法の指導内容
1)禁止食品

 特に最初に指導する「砂糖と肉の制限」は、今後、患者を食養に導けるかのKeyである。特に砂糖の話題は、歯科医が話をしても違和感が少なく、患者を納得させやすい。
  具体的には、砂糖も肉も酸性食品の代表であり、体内のカルシウムを奪い、肉体的にも精神的にも不安定にさせる食品である。
  また、油は実際には酸化した状態で摂られることが多く、体に大きな負担をかけることとなる。

2)咀嚼の励行

 何回噛めばよいということよりも、ともかく食物を口腔内で噛み尽くすということである。咀嚼運動は消化作用としての働きばかりでなく、唾液の広範な作用(抗菌、抗ガン、若返り、他)の促進、脳内血流の増加、脳中枢の活性化、全身の末梢血流の増加、プラークの減少等々、きわめて広範で有効な作用を期待できる。

3)推奨食品

 基本的には穀物菜食が体の力を向上させると私は考えているが、スーパーマーケットなどを見回すと、安価で刺激的な食品があふれている。食品売り場ではあまり目立たない存在の好ましい食品を患者に指導することになる。

4)食物の陰陽バランス
5)身土不二、
一物全体

 石塚左玄、桜沢如一らにより、広められた概念である。
  食物の陰陽バランスは、中国の陰陽思想を元にした石塚・桜沢式哲学である。現代の分析的な科学とは必ずしも一致しない点もあるが、哲学・考え方としてみると、非常にわかりやすくうなずく点が多い。
  身土不二、一物全体という考え方も同様である。
  食生活というのは理屈ではなく生き方そのものである。
  食生活を支える考え方は、わかりやすく実践しやすいものがよい。

 

食養の補助療法の指導内容
1)心のもち方  心の問題は、実は命の本質にせまるきわめて大切なテーマである。今回それらについて詳しく言及するスペースはないが、否定的な考え方、ネガティブな想念はとにかく体を弱めてしまう。できるだけ明るく素直に前向きに考える事が大切である。
2)食事中のリラックス  前項の心の問題にも通ずることだが、食事は楽しく、くつろいで摂っていただくことが大切である。
3)イメージ療法  咀嚼のたびに「健康になる」「噛めて良かった」「歯があって幸せだ」等々、プラスの思いをイメージし思いうかべてもらう。

 

<4>実験結果


1.患者A

患者:女性、57歳、体重46kg、身長151cm.
主訴:歯牙の動揺.
1)食養前
  • いびつな形の赤血球が多くみられる。レモン状の赤血球、卵状の赤血球、表面の凹凸が多く、不安定な赤血球など。
  • 赤血球同士がくっつき合う傾向(連銭形成、赤血球凝集)がみられる。
  • 赤血球の0〜10倍の直径をもつ結晶状の異物がいくつかみられる。大きさは大小さまざまのものがある。尿酸の結晶と思われる。
2)食養後
  • 赤血球のしなやかさ・流動性(赤血球変形能)が向上している。写真では評価判断しづらいが、顕微鏡モニター上で流動する赤血球をみていると、赤血球のしなやかさが明らかに向上していることがよくわかる。赤血球膜で被われ、円板状の形をもちながらも、まるで流体と思えるようなしなやかさをもち、自由に形を変えていく。食養後はその変形能が上昇している。
  • 赤血球形状はいまだ不揃いのものや不定形のものもみられたが、全体的にその割合は減少している。
  • 赤血球同士がくっつき合う傾向は減少した。
  • 尿酸と思われる異物は減少した。

2.患者B

患者:女性、74歳、体重36kg、身長140cm。
主訴:ブリッジの破損。

1)食養前
  • 赤血球の形のばらつき、大小のばらつきが多い。
  • 連銭形成がみられる。
  • 血漿中に細菌と思われる微小な物体がみられる。大きさは赤血球の1/10以下である。ちょうどプラーク中の口腔内の細菌とそっくりな動きをする。血液中にみられるこの細菌(?)は微小なため球菌なのか桿菌なのか特定しづらいが、球状のものと桿状のものとがあるようにみえる。この細菌(?)をみた時、口腔内のプラークが混入していたと考え、消毒した手指から再度採血し観察してみたが、同様に細菌(?)がみえた。
      微小な物質がブラウン運動しているのかとも考えたが、類似の大きさや物体の中に動くものと動かないものがあることや桿状ものの動きをよく観察していると、単に振動しているのではなく身をよじるような、くねらせるような動きをしていることがわかる。
      これらのことから、この微細な動く物体は異物(尿酸など)がブラウン運動をしているのではなく、微小な生物(細菌)と考えた方が適切であろう。
2)食養後
  • 赤血球変形能が向上している。
  • 形態・大きさ不揃いは相変わらずみられる(有口赤血球、レモン状赤血球など)
  • 連銭形成の割合は減少したが、まだみられる。
  • 細菌の数は減少しているようだが、まだみられる。
3.患者C
患 者:男性、38歳、体重76kg、身長172cm。
主 訴:歯肉に腫れ。
1)食養前
  • 連銭形成の傾向がみられる。大きさも不揃いなものがみられる。
  • 結晶状の異物(尿酸?)もかなりみられる。
  • 赤血球表面に棘状の突起のついた有棘赤血球がみられる。
2)食養後
  • 赤血球変形能が向上している。
  • 連銭赤血球が減少する。
  • 赤血球の形態、大きさのばらつきが減少する。
  • 結晶状異物もほとんどみられなくなる。
  • 有棘赤血球が減少する。
4.患者D
患 者:男性、61歳、体重51kg、身長163cm。
主 訴:2 前装冠破損。
1)食養前
  • 有棘赤血球がみられる。
  • 赤血球の大小がある。
  • 赤血球の形のばらつきが大きい(レモン状赤血球、卵状赤血球)。
  • 細菌がみられる。
2)食養後
  • 赤血球変形能が向上している。
  • 有棘赤血球がほとんどない。
  • 赤血球の大小の差がない。
  • 赤血球の形のばらつきがない。
  • 細菌が少ない。

 

<5>結果

1.赤血球変形能

 赤血球の直径は8ミクロン、毛細血管の直径はそれより小さい5ミクロン(平均)といわれてる。赤血球とはまさに生まれながらにしてしなやかに自由に変形しうる能力(=赤血球変形能)を特性としてもっていなければならないのである。そしてこの変形能は、食養により最も大きく変化向上する要素である。
  もちろん食養前・食養後とも個人による差はみられるが、共通していえるのは、食養により赤血球のしなやかさが向上しているのである。これは紙面で説明するより動く赤血球をみればまさに一目瞭然である。
  これは4名の被験者に限らず、体調の良い状態、あるいは食養などで体が良くコントロールされている状態の赤血球は、実にしなやかで見事な変形能をもっている。逆に体調の悪い状態の時の赤血球はしなやかさに劣る。
  残念ながら通常の血液検査では、このような赤血球変形能を評価する指標がないのが現状であり、今後の研究に期待したいところでもある。

2.有棘赤血球

 赤血球が金平糖状になっているものを総称してこう述べたが、突起が丸く低いものから、鋭く尖っているものまで、その範囲は広いようだ。
  これらがさらに進むと、赤血球細胞膜が破壊され、溶血となると考えられる。いずれにしても赤血球が変形してしまったものであるが、食養により改善する。

3.卵状赤血球、レモン状赤血球

 食養の前後ともにみられ、なかなか完全に解消しづらいようにみえた。
  ただし、赤血球は動きながら常に形を変えており、写真をとった一瞬の形態よりも、上述の赤血球変形能をうまく評価する方が意義があるように感ずる。

4.赤血球の大・小

 体調の悪い時、邪食をしている時、ばらつきが大きくなる。食養により改善する。

5.赤血球同士のくっつき、連銭、凝集

 本来バラバラのはずの赤血球が互いにくっついてしまう像も病的状態ではよくみられた。特に病的体調と飽食、過食が重なるとその傾向が強くなり、ひどい場合は、コインを重ねたように何十もの赤血球がくっついてしまうものもあった(連銭形成)。食養により改善する。

6.細菌の存在

 細かく動き回る細菌がみられた。
  体調の低下している時、ストレスなどで体に大きな負荷がかかっている時に多くみられる。食の影響も大きく受け、糖分の摂取が多いと細菌が増えやすいようだ。
  食によりかなり改善するが、一見健康な人にも細菌がみられることがある。

7.尿酸などの異物

 顕微鏡で観察しただけでその異物を正確に特定することは困難であるが、尿酸結晶と思われるもの、コレステロールと思われるもの、タバコのタールと思われるものなど実に種々の異物が観察される。
  しかし、多くの異物は食養により明らかに減少する。

8.その他

 肥満と痩せ、陽性体質と陰性体質などと、赤血球との相関も関心をもって観察してみたが、それらに関しては、はっきりした傾向はつかめなかった。

 

<6>考察

 現代血液学での研究対象は、主に静脈から採取された血液であり、採取直後、抗凝固剤を加えられ観察される。こうした血液検査法は通常の臨床の場でも大いに活用され、体系づけられた学問となっていることは周知の通りである。
それに対し、今回私が検査対象としたのは、口腔粘膜から採取した末梢血(毛細管内血液)であり、抗凝固剤等の添加もない。また、標本も塗抹標本ではなく、カバーガラス下で自然に広がった像を観察した。 
これは既存の血液検査学とは異なる観察法であり、その人の微妙な体調の変化を表すようである。特に食と血液の関連は非常に強く、飽食、偏食ぎみの現代人が食を改めると血液像はきわめてダイナミックに変化し、まさに食物が血となり肉となることを実感する。
既存の血液検査や他の検査法では数値化しづらいような体の変化を知るのに有効であり、今まで漠然と語られていた食養と体の変化の相関を知る1つの目安となり得ると考える。当報告では詳説できなかったが、例えば、連銭形成と脂質の摂取、尿酸結晶と蛋白質の摂取、赤血球容積と貧血傾向、その他、個々の血液状態とその人の健康状態、そして食事上の問題点はかなり具体的相関をもっていることが推察される。
今後さらに基礎的データを集積することで、血液像を観察するだけでその人の健康状態はもとより、具体的な食事の問題点などを知ることができるだろう。

 

<7>問題点

 末梢血を採取しその場で観察することは、すでに述べた通り実に生きた情報を得ることができる。
  しかしここで注意しておかなければならぬことがいくつかある。
  まず第一に採血操作によるデータの変動である。現代血液検査学においても、その学問的ベースとなっているのは、その客観性、再現性であり、最近の血液検査機器では、採血後検体である血液に全く人の手が触れず、機械による完全自動化が進んでいる状態である。人為的作業のバラつき、artifact errが入り込めないのである。

  かたや末梢血を観察する当方法では、採血部位、採血法、スライド作製法、それらの操作時間等々……、これらすべては、わずかの違いで大きなバラつきやエラーが入り込みやすい。私自身この実験を始めてから、かなりの期間そのバラつきやエラーの解消に、多くの労力を費やすこととなった。
  例えば、採血部位が健全組織か否かで当然血液像は変わってくる。また、口腔内においては、唾液やプラークをはじめさまざまな異物が混入しやすい。当初、私は歯間乳頭部から採血することで血液を観察しようとした。簡単に採血できるからである。しかしこの部位は多くの場合、慢性の炎症反応が起きている。炎症があるから出血しやすく、採血しやすいという落とし穴だった。さらに歯間部には常にプラークが存在し、これらの細菌を完全に除去する作業が繁雑である。

  実は血液中には、多くの場合常在菌?ともいえそうな細菌が多かれ少なかれ存在するのである。しかし初期の実験では、私はこれらの細菌は口腔内から混入したものと勘違いしていた。採血部位、採血法が不良だったための誤認であった。
  その他諸々の失敗を経て、今回の実験では採血に関し前述の実験方法で記したようなルールで行った。しかしコンスタントに安定した血液像を観察するためにはこれらの操作の慣れこそが必要であり、実はこの「操作の慣れ」が当実験の成否を決める大切な要素と感じている。 
  最近では採血部位も異物の混入しやすい口腔内は避け、操作の楽な手指などから採血するようにしている。それでも採血操作や観察操作により、結果が左右されやすいという感触をもつ。

  私は今回の被験者4名の他に、実験前や実験後にも多数の人の血液を観察してみたがこの検査法で、一にも二にも大切なのは、採血・観察操作の安定化と感じている。 
  第二の問題点である。この種の検査法では、作成したプレパラート上でどの部を観察するかで結果は変わってくる。同じプレパラート上でも、細菌のたくさんみえる所とそうでない所がある。尿酸などの異物に関してもしかり。赤血球の変形状態にしても、連銭赤血球の状態にしても、すべての観察項目に関し、プレパラート上等しく均一ではない。また、血液(検体)の厚さも決して一定ではない。赤血球がおり重なるように多量にかたまっている所もあれば、非常に希薄な部分もある。観察する価値のある部分とない部分があることを知らねばならない。
  これらの点を考慮して検査を進めるよう心がけねばならない。

  三番目の問題である。現代血液学や血液病理学でも、末梢血鏡検よる診断は基本的なものとして重視されている。しかし血液病学で教える診断は、例えば連銭形成があれば、高グロブリン血症か高フィブリノゲン血症で、骨髄種とかマクログロブリン血症を疑うとある。さもなくば、観察部位の誤りか、操作上のエラーと教えている。確かに観察部位や操作のエラーで、連銭形成はいくらでも発生している。
  しかし当検査法での血球を見慣れてくると、artifacterrと重篤な疾患の間に、いわゆる「未病のきざし」ともいえそうな変化が現れるように思えてならない。
  現代血液病理学と当検査法との相関や比較について、改めて検証してみることも必要だろう。

<8>まとめ

  かつて千島喜久男は、腸管内で吸収される食物が血管内入る段階で直接赤血球に生まれ変わるといい切った。彼の腸管造血説である。現代血液学としては完全に否定されている説であるが、一部の食養指導者達からはいまだ強く支持されている。
  腸管造血説の是非をここで論ずる必要はないが、大切なのは、食と血液はきわめて強い相関をもち、食を変えるとすぐに血液も変わってくるということである。食が乱れればすぐに血液も乱れる。一見本人は気付かず、健康そのもののつもりでいるかもしれない。臨床検査でも異常値は出ないかもしれない。しかし血液は正直である。東洋医学の言葉に「未病を治す」というものがある。発病する前に治してしまおうということである。
  「血液を見て、食を改める」。まさに東洋医学の本質に近づく王道であろう。

 

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