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症例報告 頸骨腕症候群症例における
咬合と食養の関連
−2症例の比較からの検討−

静岡県田村歯科医院
田村享生
日本全身咬合学会雑誌第4巻第1号別刷
日本全身咬合学会 1998


和文抄録:

 今回、頸骨腕部に強い症状を訴える2つの症例に対し、食養や気功、イメージ療法などを積極的に取り入れて治療に臨んだ。咬合治療は最後の手段としてできるだけ行わなかった.この結果をここに報告し、考察する。

症例 1

  頸骨腕部および顎関節に強い硬直、痛み、運動障害がみられたが、最後まで咬合には全く手を触れることなく、食養、イメージ療法、外気功のみで症状は緩解した。

症例 2

  本症例では頸骨腕部、顎関節の疼痛、運動障害、さらには強い消化器障害・精神不安定・不整脈なども併発していた。

 これらに対し、食養・外気功を行うことでかなりの症状は改善したが、完全ではなかった。その後、臼歯部(F6Dbr)咬合調整を行ったところ、残りの症状も消えてゆき、完治した。

 キーワード: 食養、気功、咬合、恒常性、生体バランス

 Abstract : The author reports two cervical syndrome cases in which the author takes dietary treatment,Qi-gong treatment,imaging treatment, not occlusal treatment.
CaseT
  The patient had strong stiffness and pain and dismovements of cervical area and TMJ.
The dietary treatment and Qi-gong treatment and imaging treatment were taken in this case. By these treatments all the symptoms were relieved.
CaseU
  This patient had strong pain and dismovement of cervical area and TMJ. And she had got digestive disorder and mental instability, arrhythmia day and day.
The dietary treatments and Qi-gong treatment and imaging treatment were also taken in this case. By these treatments almost symptoms were relieved, but some symptoms were continued.
  After that, occlusal treatment (occlusal equilibration of F6D Bridge) were taken,and all the symptoms were relieved.
  Key words : dietary treatment, Qi-gong treatment, occlusal treatment, homeostasis, bio balance

 本論文の要旨は第7回日本全身咬合学会学術大会(平成9年11月29、30日、東京)において発表した。

 

<1>はじめに

 咬合の不調和と頸骨腕部の異常にはかなり強い相関があることは、多数の報告からも明らかだろう。
  咬合を学び、それを日々の臨床に生かすわれわれとしては、より正しく、より精密な咬合を各患者に寄与していかなければならない…。私自身かつて、ひたすらそう考え、TMJや頸骨腕部に異常所見がある患者に対し、徹底した咬合の管理とcheckを最良の対処法と考えていた。

 しかし多くの諸先輩方もご存知の通りわずかの咬合のひずみで全身症状を発現する患者は外的ストレスに弱く、 わずかの刺激で体をこわすことが多いように思う。
  そこで今回、咬合関連を連想する頸骨腕部に症状を有する患者2名に対し、咬合にできるだけ触れず、生体の許容力を向上させるべく食養・外気功・イメージ療法などを行った。咬合のプロフェッショナルが、咬合に触れずに対処するということは、一見はがゆく感じた面もなきにしもあらずだが、ひょっとしたらこれこそ医にたずさわる者としてとても大切なことではないかとも考える。

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<2>症例

左手の湿疹
図1 左手の湿疹

上顎
図2 上顎

前歯
図3 前歯

下顎(鏡面撮影)
図4 下顎(鏡面撮影)

被蓋状況(前歯部)
図5 被蓋状況(前歯部)

被蓋状況(側側部)
図6 被蓋状況(側側部)

表1   治療方針
1.
食養
2.
外気功
3.
補助的治療
1)ゴム電極による経皮通電
2)イメージ療法

 

表2   症例1の食養
1. 砂糖と肉の制限
2. 咀嚼の励行
3. 好ましい食品について
4. 食品添加物、残留農薬について
5 食に対する気づき
6 食とはおいしく楽しいもの





1.症例1

1)患者:28歳、女性

2)主訴および愁訴

  (1)首筋のコリ、痛み(左右)
  (2)慢性鼻炎、花粉症
  (3)肌荒れ、湿疹 (図1)

3)咬合状態

 上下歯列とも一見きれいな歯列であるが、開口時下顎がやや左へ偏位する傾向にあり、また34の側方運動時の負担が少なく、その分125の負担増がみられる。
  特に、11の咬合は緊密であり、切歯顆路角も急であり、11の負担は大きいように感じた(骨吸収などはみられない)(図2〜6)。
  O-Ring Test においては、左右白歯部にワッテを咬ませることで+1〜+2との反応を示した。

4)現病歴

 10代の頃より偏頭痛、首筋のコリで悩まされることが多く、その都度鎮痛剤を服用していた。またその頃より顎関節雑音にも気づいていたが放置していた。4〜5年前からは内科にて処方される精神安定剤を常用している。
  6ヵ月位前から右側顎関節部の疼痛が出はじめ、開口障害も苦になりだし、平成7年6月6日当院へ来院。

5)家族暦

 母も慢性の頭痛持ちであり、頭頸部の痛みは遺伝だからやむを得ないと考えていた。

6)口腔内所見

 上下歯列において、7にc2が認められた他は全顎の歯牙および歯周組織に問題となるような異常所見はみられなかった。

7)治療方針(表1)

 咬合治療という面から考えれば、前歯部離開型のスプリメントまたはテンプレートを装着し、左右の顎偏位の解消と前歯部の負担軽減をすすめつつ経過観察をする……といった方針になるだろう。しかし今回患者と相談の結果、咬合治療は一切行わず、自然治癒力の増強を旨とした食養と外気功を中心として治療を進めていくことにした。

(1)食養(表2)

 私が行っている食養は「玄米菜食」と「咀嚼の励行」を原点とするが、初診の患者にこれをそのまま実行するのは臨床的になかなか難しい。そこで歯科外来において、食養に対する敷居を少しでも低くするようmotivationを交えながら、段階的に指導していくようにしている。
  特に最初に指導する「砂糖と肉の制限」は今後患者を食養へと導けるかどうかのkeyである。砂糖と肉の話題は歯科医が話しても違和感が少なく患者を納得させやすい。

 また何より大切なのは、食養上の偏食(邪食)者にとって砂糖と肉の制限により身体は著しい変化をする。これは食養に対するmotivationを高め次のステップへ強力に導きやすくなる。どんなに素晴らしい食養でも、患者がやる気を出して努力しなければ全く意味を持たない。
  私が行っている食養はより現実的で,少しでも障害が少なくなるように工夫した簡易式食養である。

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具体的には…

a.砂糖と肉の制限
  どちらも酸性食品の代表である。体内のカルシウムやビタミンを奪い肉体的にも精神的にも不安定とさせる食品である。特に肉に関しては家畜用人工飼料に含まれる抗生剤、ホルモン剤等の問題は無視できない。

b.1口最低50回以上の咀嚼

 1口100回の咀嚼といういい方もあるが、とにかく食物を口腔内にて流動状態になるまで噛みつくし、真に味わうといったほうがよいだろう。咀嚼運動は消化作用としての働きばかりでなく、唾液の広範な作用(抗菌、抗ガン他)促進、脳内血流の増加、脳内中枢の活性化、全身の抹消血流の増加、プラークの減少(カリエス、歯周病予防)等々、きわめて有用な効果を期待できる。ダイエットにも非常に効果がある。後述するイメージ療法とからめるとその効果はさらに倍増する。

c.好ましい食物について
  野菜、豆、海草、小魚、など、身土不二の考え(その土地(=風土)と身体とは緊密な関連があり、その土地で産する物がわれわれにとって最も自然な食物である)。遠方から運んできたり、人為的な手を加えた物ほど食の価値は劣る。

d.食品添加物、残留農薬などのみえない恐怖
  現代の食品流通機構や経済活動では必要悪として認められている?これらはいのちを考える上で極めて恐ろしい危険をはらんだものである。

e.食生活の偏り、現代人の生活の偏り:食事とは栄養補給の行為ではなく、地の気の補給であり、これはとりもなおさずいのちの補給である。利便性や経済性を追求した現代生活は、上述した人工添加物等の問題とも重なりきわめて危険である。

f.食とはおいしく楽しむもの
  ケーキ、肉、インスタント食品、ファーストフード等の禁止食品は純粋なる嗜好品として捉える。当患者はケーキが好物であったが、1週間に1回良質な物を少量だけはよしとし、本人もかえっておいしさと楽しみが増したといっている。

(2)外気功

 気功はもと「導引」の中の「吹句呼吸・吐故納新・能経鳥伸」に含まれているが、今日では独立した自己鍛練法・医療として定着し、さまざまな方法や分類が行われている。その主なものに硬気功(武術気功)と軟気功(医療気功)があり、軟気功には外気功と内気功が含まれる。外気功は「気」を病者に照射することによって疾病を治すもの、内気功は自身のうちに気を巡らせて病を克服し、あるいは健康を促進させるものをいう。また内気功の中には静功(体の動きを伴わない瞑想気功・内観法)、按功(自身の身体を按摩・マッサージして気功を行わす気功)、動功(身体の気を行わせるために身体を揺り動かす気功)等がある。
  筆者は、術者の両手を患者の左右顎関節にあて、1回5〜10分外気功を行う。その間患者はリラックスして横になってもらう。

(3)補助的療法

a.関連経穴に対するゴム電極経皮通電:主に合谷、下関、時に患者の症状に合わせて頬車、天柱なども利用した。

b.心理療法、イメージ療法
  a)1本ずつ積極的ブラッシング。その歯1本ずつを意識し、それらが正しく萌出し機能していることに感謝する。歯と歯肉に対しいたわりと愛情の念を込めてbrushingのmassageを行う。
  b)1口50回以上の咀嚼時、一噛みごとにこの食物が自身の血となりエネルギーとなることをイメージし、食べられること、味わえることを感謝する。

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症例1の治療前後の比較

 

8)経過と結果(表3)

(1)平成7年6月6日
  右顎関節痛、開口障害を主訴として来院。brushing指導、食養指導、外気功を行う。スプリントについて説明し経過を見て作製するかどうかを検討する。

(2)6月12日
  brushing指導(イメージ療法)、食養指導、外気功、カリエス処置(7)を行う。

(3)6月16日
  初診わずか10日だが症状の緩和がみられる。スプリントなどの咬合治療は行わず、体の変化に注目する。

(4)6月20日
  食養、イメージ療法説明、外気功および経皮通電を行う。

(5)6月26日
  前回と同処置。
  頭頚部の症状が明らかに軽減していることが自覚できる。1日3回常用していた鎮痛剤が1日1回あるかどうかに回復してきている。顎関節の疼痛および雑音は日常ほとんど気にならない状態となっている。以後治療間隔を開けていく。

(6)7月12日
  食養確認、外気功、猛暑による夏バテあるが症状緩和中。

(7)8月11日
  全身に及ぶ症状改善がみられる。まだ初診から2ヵ月であり、今後十分な経過観察が必要であるが、10年来の頭頚部痛、顎関節雑音が短期間に緩和してきていることに患者自身も驚いている様子。

(8)9月14日
  3ヵ月間の体調の改善に自分でも自信がついた様子である。
  食養とイメージ療法も身についてきている。今後は自己管理を主とし、治療終了とする。

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