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症例報告 頸骨腕症候群症例における
咬合と食養の関連
−2症例の比較からの検討−

静岡県田村歯科医院
田村享生
日本全身咬合学会雑誌第4巻第1号別刷
日本全身咬合学会 1998


 

2.症例2

1)患者:64歳、女性

2)主訴および愁訴

(1)胃腸障害・嘔吐
(2)摂食障害
(3)開口障害
(4)首肩の硬直:運動障害
(5)全身倦怠 
(6)動悸・不整脈
(7)精神不安定

 他歯科医において、6eXT、F6Dbridgeを作製したが、6抜歯後の腫脹および抗生剤による胃腸障害をきっかけに全身に及ぶ不快症状が出現した。Bridge作製後はさらにそれが増悪拡大し内科を受診するが改善はみられず当院に問合せがくる。
  患者の居住地が遠方のため当初は電話による食事療法(治療第T期)を行い、その後通院治療(治療第U期)を行った。

 

表4   治療方針
治療第一期
1. 食養
2. イメージ療法
3. 遠隔療法
治療第二期
  ・咬合治療

 

表5  症例2の食養
1. 玄米粥と梅干し
2. 無理して食べない
3. 徹底的に噛む
4. 梅醤番茶
5 みそ汁





上顎(鏡面撮影)
図7 上顎(鏡面撮影)

前歯
図8 前歯

下顎
図9 下顎


Br咬合(鏡面撮影)
図10 Br咬合(鏡面撮影)

側方ガイド(鏡面撮影)
図11 側方ガイド(鏡面撮影)

3)治療方針(表4)

(1)第T期:電話による相談にて口頭でできる指導・治療を行う

a.食養(表5)

 当患者はすでに摂食障害(胃腸障害・食物を受けつけない・嘔吐感)、咀嚼運動の苦痛(開口障害・首肩の硬直)に陥っており、通常の食事が摂れない状態だった。そこで、ここでの指導内容は…

a)玄米粥(または胚芽米粥)と梅干
  土鍋にて有機栽培の玄米をとろ火でゆっくり時間をかけて粥状に炊く。それに梅干を加え、これをとことんよく噛む(唾液とよく混ぜ、自然になくなるまで噛みつくす)。胃腸障害の強い時は、消化のよい胚芽米を使用し、胃腸の改善に合わせて玄米に変える。

b)無理なく食べられる量をとる
  時間をかけて食べられる量のみとる。

c)徹底的によく噛む
  噛むというより、口の中で自然に食物が消えてしまうまで顎を動かす。
  食物がなくなっても唾液のみで咀嚼を続ける。

d)お茶は温かい梅醤番茶とする。
  梅醤番茶とは、熱い番茶に種を取った梅干、醤油小さじ1杯、生姜おろし汁2〜3滴加えたもので、それをよくかき混ぜて飲む。ここでは市販の「3年番茶」使用し醤油・生姜の量は自分の好みで多少増減してもよいとした。このお茶を飲む際にも”ゴクン”と一気に飲み込むことは避け、唾液と混ぜながら、よく噛みながら自然に口の中から消えていくようにして飲む。

e)みそ汁
  みそは自然食品店で販売している2年以上熟成した豆みそを使用。ダシは海草(コンブ)を利用する。具は旬の野菜とし、体調に合わせて汁のみ、あるいは具の量などを調節する。みそ汁もお茶同様、噛むようにして唾液とよく混ぜながら少しずつ食べる。

b.イメージ療法

 食物は徹底的に咀嚼することとなるので、その一噛みごとに次のようにイメージする。
「その食物が自分の血となりエネルギーとなり、これで体調が良くなる」と。
  食物すら全く受けつけない病人に比較すれば自分は何と幸せかと考え、食べられる自分の身体に感謝する。

c.遠隔治療
  毎晩、外気功(遠隔療法)を行う。

(2)第U期:第T期でかなりの改善がみられたがいまだ不調が続くため、直接当院へ来院し、口腔内を確認した (図7〜11)。

a.咬合治療を行う
  F6D新製Brの咬合checkを行う。
  作業側運動時に7遠心頬側咬頭外斜面が接触している。通常の咀嚼運動時にはわずかに触れる程度だが、術者が誘導すると7にてロックしている部分が認められる。

 

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4)経過と結果:(表6)

症例2の治療前後の比較

 

(1)平成8年9月下旬
  6部腫脹・疼痛を主訴とし、a歯科医院を受診、根管治療を始める。

(2)10月上旬
  6部の疼痛が改善せず、6extする。
  同時期から抗生物質、消炎鎮痛剤の投与を受け、これを機に胃部の不快感、食欲不振が続く。強い胃腸障害に抗生物質等の服用は中止するが胃の不快感(常にもたれている)は改善せず、食事も思うように摂れない状態が続く。夜、眠り難くなり、不眠を苦にするようになる。

(3)11月上旬
  6ext部にF6Dbrが完成し、a歯科医院の治療は終了した。
  咬み合わせが少し高い気がしたが、体調不良すでに著しく、内科通院に専念する。
  内科にて処方された胃炎の薬、精神安定剤を服用するが、効果なし。

(4)11月下旬
  食事を受けつけない状態となり、食事はお粥のみという状態となる。動悸がするようになり、不整脈もみられるようになった。
  内科にて点滴を受け、家ではほとんど寝ている状態になる。体重は51kgあったのが42kgとなる。

(5)治療第T期

a.12月上旬
  当院に相談の電話をする。患者の居住地が遠方のため(北海道)、電話にて食事指導を行う。
  胃腸障害が強いので、消化のよい胚芽米を粥状にどろどろにしたものを食べてもらう。他の食物を無理に摂らないように指導する。内科で処方されている薬(胃の薬、不眠の薬、不整脈の薬)は自分で必要を感じたもののみ服用して良いとする。
  「食物だけで改善する」という自信をもたせるようにした。

b.12月中旬
  ほとんど寝ていた生活から改善がみられ、主食も胚芽米から玄米に変える。
  玄米とみそ汁、少量の野菜という食事が続く。

(6)治療第U期

a.平成9年1月下旬
  健康な体力とはいえないが、通常の外出もできるようになり、当院に来院していただく。F6DBrの咬合の調節を行う。
  首の回りが軽くなるのが自覚できる。

b.3月下旬
  胃のもたれる感じが残っているが(胃潰瘍の診断を内科にて受けた)他の症状はほとんど改善した。

c.8月上旬
  体調はすこぶる良好である以前より体調もよい。
  食事は玄米菜食をベースとするようになった。


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<3>考察

  われわれは日々さまざまなストレスに囲まれながら生活している、
  物理的、化学的に生体に負担をかけるものから現代社会ゆえに生ずるような社会的ストレスもある。

具体的に例を挙げれば

・不規則な生活
・睡眠不足
・精神的ストレス
・偏食・食の乱れ
・多量の食品添加物
・薬などの化学薬品
・身の回りの電磁波
・大気の汚れ   
・咬合の不調和
・その他

 数えあげればきりがない。

 口腔の健康に関与するわれわれはこれらのストレスのうち特に咬合の不調和に関心を持ち、「咬合と不調和」というストレスが社会通念で考えられているよりはるかに大きく、多大な影響を与えていることを常々訴えてきた。これはとても重要であり意義のあることと考える。
  しかし、わずかな咬合の不調和で全身に及ぶ大きな異常を発現する者がいる一方、とんでもなく咬合が異常であるにもかかわらず本人は何の不調も訴えず元気そのものでピンピンしている者もいる。

生体の力


  図12に示すように、人間の生体の力(許容力:カップの大きさ)は各人により異なる。多くのストレスを受けながら余裕を持って受け止めることができる人がいる反面、比較的少量のストレスで飽和状態となってしまう者もいる。

 また、その人が一見バランスが取れた状態にみえてもすでに飽和状態であるならば、あとわずかな負荷すらも受け入れることはできないし、わずかな刺激だけで微妙にバランスが取れていた飽和状態のものが崩れてしまうことすらありえる。(図13)

 現代医学的アプローチとしては各ストレスのボールを小さくするとか、またそれを消していくことが主なる治療として考えられ、人間の生体の容量の大きさを変えることに対しては積極的ではない。


本症例について改めて考えてみよう(表7)。

症状Tと症状Uの比較

 症例1も症例2も頸骨腕部からTMJにかけての症状をもち、現代歯科医学的アプローチとしてはまず咬合の不調和を探すことから始めるだろう。
  明らかな咬頭干渉や偏側低位などがある場合などは原因も解りやすく、まさに歯科医の得意とする咬合再構築とか口腔リハビリテーションといわれる仕事に専念すればよい。
  しかしながら実際には明らかな原因を特定できることはむしろ少なく、まずは咬合挙上スプリントなどをいれ微妙な咬合調整を繰り返すことになる。

 今回の2症例では咬合調整は最後の手段と考え食養と外気功を主たる治療法と考えた。
  その理由は顕著な咬合異常や咬合崩壊がないことが明らかだったこと、患者さん自身が食養に対し比較的積極的だったことなどである。
  症例2では患者さんの居住地が遠方で来院が困難だったことも食養・外気功を優先させた理由の一つである。
  わずか2症例の検討であるので、これらから咬合の関連やあるいは食養の効果の臓器特異性などを述べるのは不適切であろう。

 しかし、ここで臨床上強く感ずることとして図12に示した人の体の許容力が、明らかに大きくなっていることである。
  体に負担としてかかってきている各ストレスは基本的に変わっていないのに、受け手である体の方がそれらを許容し、症状は消えてしまうのである。
  厳格な食養などを実践してみると、この傾向ははっきりと目にみえてくるが、症例1のように簡易式食養だけでも臨床的に効果を実感できるものも多い。

 われわれ歯科医は口腔内の処置を行うに際し、患者本来の正しい咬合状態を維持できるよう最大限の努力をすべきことは当然のことだが一方で、多少咬合が乱れようともビクともしない体になるよう患者自身の体を誘導していく努力をしてもよいと考える。

 

(1)平成7年6月6日
  右顎関節痛、開口障害を主訴として来院。brushing指導、食養指導、外気功を行う。スプリントについて説明し経過を見て作製するかどうかを検討する。

(2)6月12日
  brushing指導(イメージ療法)、食養指導、外気功、カリエス処置(7)を行う。

(3)6月16日
  初診わずか10日だが症状の緩和がみられる。スプリントなどの咬合治療は行わず、体の変化に注目する。

(4)6月20日
  食養、イメージ療法説明、外気功および経皮通電を行う。

(5)6月26日
  前回と同処置。
  頭頚部の症状が明らかに軽減していることが自覚できる。1日3回常用していた鎮痛剤が1日1回あるかどうかに回復してきている。顎関節の疼痛および雑音は日常ほとんど気にならない状態となっている。以後治療間隔を開けていく。

(6)7月12日
  食養確認、外気功、猛暑による夏バテあるが症状緩和中。

(7)8月11日
  全身に及ぶ症状改善がみられる。まだ初診から2ヵ月であり、今後十分な経過観察が必要であるが、10年来の頭頚部痛、顎関節雑音が短期間に緩和してきていることに患者自身も驚いている様子。

(8)9月14日
  3ヵ月間の体調の改善に自分でも自信がついた様子である。
  食養とイメージ療法も身についてきている。今後は自己管理を主とし、治療終了とする。

 
 

<4>まとめ

 


  1. 食養はホメオスタシスの向上に役立ち、咬合不調和を疑わせる症状に対しても、咬合に触れずに症状の改善を期待できる。

  2. 基本的体力の低下などを伴う状況では、わずかの咬合の不調和が大きな影響を及ぼす。

  3. 食養を多大評価してはいけない。咬合もまたしかり。生体はバランスの上に成り立つ。

文献

  1. 田村享生:強度の顎関節症および関連症状が食養と外気功により緩解した症例とその評価、日本歯科東洋医学会誌、15;12〜17、1996.
  2. 尾澤文貞:全身咬合、デンティスト社、東京、1990。
  3. 久司道夫:マクロビオティック健康法、日貿出版、東京、1979.
  4. 桜沢如一:新食養療法、日本cI協会、東京、1964.
  5. 幕内秀夫:粗食のすすめ、東洋経済、東洋経済、東京、1995.
  6. 島田昭夫:食とからだのエコロジー、農文協、東京、1994.


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